非常用発電機の設置基準とは?

台風や地震による停電は、九州において決して珍しい災害ではありません。

九州電力の公表によると、2020年9月の台風10号では最大約47万6千戸、2004年9月の台風18号では最大約108万1千戸が停電の被害を受けました。

このような停電時に、消火ポンプや排煙機、非常用エレベーターといった生命線となる設備を確実に稼働させるために不可欠なのが「非常用発電機」です。

一方で、非常用発電機の「設置基準」は、消防法、建築基準法、電気事業法、そして市町村の火災予防条例と多岐にわたる法令にまたがっており、インターネット上には古い情報や不正確な情報も多く見受けられます。

この記事では、以下の4点を中心に解説します。

  • ご自身の建物に設置義務があるかどうかの判断方法
  • 法令ごとの要件(運転時間・性能・離隔距離)
  • 届出の種類・期限・提出先(福岡市の場合)
  • 設置工事の流れと、設置後の点検義務
LICENSED CONTRACTOR 福岡県知事許可
(一般)電気工事業 第98211号
TRUST & TRACK RECORD 創業24年(2002年創業)
の信頼と実績
PROVEN EXPERIENCE 公共・教育・産業用施設における
豊富な電気工事実績

非常用発電機の設置基準は、1つの法律だけにまとまっているわけではありません。

「設置しなければならないか」を決定するのは消防法と建築基準法であり、
「どう設置し、どう管理するか」を定めるのが電気事業法と市町村の火災予防条例です。

法令何を決めているか発電機の呼び名主な要件手続きの窓口
消防法 消防用設備の非常電源 非常電源
(自家発電設備)
停電後40秒以内に電圧確立、設備ごとに30分〜2時間の作動、不燃専用室またはキュービクル式、離隔距離 所轄消防署
建築基準法 建築設備の予備電源 予備電源
(自家用発電装置)
設備ごとに30分〜60分 特定行政庁・指定確認検査機関(建築確認の中で審査)
電気事業法 電気工作物としての保安 非常用予備発電装置 出力10kW以上の内燃力発電設備は自家用電気工作物。保安規程の届出・変更、電気主任技術者 産業保安監督部(福岡は九州産業保安監督部)
火災予防条例
(市町村)
設置場所・構造・離隔・届出・点検 内燃機関を原動力とする発電設備 不燃区画・換気・標識、屋外は建築物から3m以上(例外あり)、設置前の届出 所轄消防署
消防法
(危険物)
燃料の貯蔵量 ― 軽油1,000L・重油2,000L以上は許可、その1/5以上は少量危険物の届出 所轄消防署
大気汚染防止法 ばい煙発生施設 ― ディーゼル機関・ガスタービンは燃料の燃焼能力が重油換算50L/h以上で該当。手続きは電気事業法ルート 産業保安監督部

※2026年9月時点の法令に基づく。個別の建物の判断は所轄の消防署等にご確認ください。

  • 防災用
    消防法や建築基準法で義務づけられた負荷(消火ポンプ、排煙機、非常用エレベーター等)へ電気を送るための発電機です。
    法令が定める厳格な性能基準(40秒以内の電圧確立など)を満たす必要があります。
  • 保安用(BCP用・一般停電用)
    法的義務はないものの、事業継続や避難所機能の維持、サーバーや冷凍設備の保護などを目的に任意で設置する発電機です。

1台で両方をまかなう「防災用・保安用兼用」の設計も数多く存在します。

ただし兼用の場合は、防災負荷に必要な出力と運転時間を確実に確保したうえで、保安用負荷を上乗せする設計が求められます。

また、任意設置であっても電気事業法・火災予防条例(離隔・届出)・危険物規制の対象となる点には注意が必要です。

非常用発電機の設置義務は、「延べ面積が○㎡以上なら必ず必要」という単純な線引きではありません。

「非常電源が必要な消防用設備や建築設備が、その建物に設置されているか」によって決まります。

よく耳にする「延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物」という条件は、発電機の設置義務そのものを指すのではなく、「非常電源専用受電設備では認められず、自家発電設備等の設置が必要になる規模」を意味しています。

  1. 非常電源・予備電源が必要な設備があるかを確認する

    建物に「非常電源の附置が必要な消防用設備(屋内消火栓、スプリンクラー、排煙設備、非常コンセント等)」や、建築基準法で「予備電源」が必要な設備があるかを確認します。

  2. 「特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上」に該当するかを確認する

    特定防火対象物とは、百貨店、ホテル、病院、福祉施設、飲食店など、不特定多数や避難が困難な人が利用する建物です。

    該当する(YES)
    非常電源として、自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれかが必要です(非常電源専用受電設備は選択できません)。
    該当しない(NO)
    非常電源専用受電設備(キュービクル等を非常電源仕様にしたもの)を選ぶことも可能です。
  3. 動かす負荷が「動力」で、必要な容量が大きいかを確認する

    ポンプや排煙機などの動力負荷で必要な容量が大きい場合、蓄電池設備では現実的でなく、自家発電設備(非常用発電機)が選ばれるのが一般的です。

消防法施行規則(第12条第1項第4号など)において、屋内消火栓設備等の非常電源は原則として各種設備が認められています。

ただし、特定防火対象物で延べ面積が1,000㎡以上のものについては、自家発電設備、蓄電池設備または燃料電池設備によることとされています。

この規定のポイントは、
①前提として非常電源が必要な設備が存在すること
②非常電源の「種類」の制限であること
③発電機に限らず蓄電池設備でも法規上は認められる点にあります。

なお、自動火災報知設備や誘導灯などの非常電源は蓄電池設備が基本であり、発電機が選択肢になるのは主にポンプや排煙機などの大容量動力を伴う建物です。

共同住宅は消防法上の「特定防火対象物」に含まれないため、1,000㎡ルールの直接的な対象外です。

ただし、規模に応じて屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、非常用エレベーター(高さ31m超)、連結送水管の加圧送水装置等が必要となり、その非常電源・予備電源として発電機が設置されているケースが多く見られます。

なお、給水ポンプやエレベーター、機械式駐車場を動かすための発電機は法的義務ではなく、管理組合の判断による任意(BCP)設置となります。

消防法における自家発電設備には、「常用電源の停電後40秒以内に電圧を確立して送電できること」や「つながっている消防用設備を設備ごとに定められた時間以上作動させられること」が義務づけられています。

消防用設備必要な作動時間自家発電設備を使えるか根拠条文(消防法施行規則)
屋内消火栓設備 30分以上 ○ 第12条第1項第4号
スプリンクラー設備 30分以上 ○ 第14条第1項第6号の2
水噴霧・泡消火設備 30分以上 ○ 第16条第3項第2号・第18条第4項第13号
不活性ガス等の消火設備 1時間以上 ○(専用受電設備は不可) 第19条第5項第20号ほか
屋外消火栓設備 30分以上 ○ 第22条第6号
排煙設備 30分以上 ○ 第30条第8号
連結送水管の加圧送水装置(高層) 2時間以上 ○ 第31条第7号
非常コンセント設備 30分以上 ○ 第31条の2第8号
自動火災報知設備等 10分 ×(蓄電池等) 第24条第4号ほか

※「○」は自家発電設備を非常電源として使える設備、「×」は蓄電池設備などによる設備です。

「自家発電設備の基準」(昭和48年消防庁告示第1号)に基づき、以下の性能が求められます。

  • 停電後、自動的に電圧確立・投入・送電が行われること(所要時間は40秒以内)。
  • 定格負荷における連続運転可能時間以上出力でき、その時間に消費される量以上の燃料を保有していること。
  • セルモーター用蓄電池は、5秒の間隔を置いて10秒の始動を3回以上行えること。
  • キュービクル式外箱の鋼板厚は、屋外用2.3mm以上、屋内用1.6mm以上であること。

法令が求める運転時間は、初期消火や避難を行うための30分〜2時間であり、「停電中ずっと建物全体の電気をまかない続ける時間」ではありません。

よく耳にする「72時間」という水準は、内閣府の業務継続ガイドラインにおいて自治体庁舎等に「望ましい」とされる目安であり、消防法上の義務ではありません。

ただし、災害拠点病院などでは厚生労働省の指定要件として3日分程度の燃料備蓄が求められています。

建築基準法では、停電時にも作動すべき建築設備(排煙設備や非常用エレベーターなど)に予備電源の設置を求めています。

  • 排煙設備
    建築基準法施行令第126条の3に基づき、電源を必要とする排煙設備には30分間の予備電源が必要となります。
  • 非常用エレベーター
    高さ31mを超える建築物に設置が義務づけられており、技術基準により60分間の予備電源が求められます。
  • 非常用の照明装置
    予備電源として蓄電池、または蓄電池と自家用発電装置の組み合わせが用いられます(発電機単独では認められません)。

1台の発電機で消防法と建築基準法の設備を兼用する場合は、それぞれの必要時間や同時運転に必要な出力を十分に満たす設計が不可欠です。

非常用発電機は、原則として不燃材料で区画された「専用の室(不燃専用室)」に設置するか、基準に適合した「キュービクル式」として機械室や屋外・屋上に設置します。

  • キュービクル式
    前面に1m以上、建築物や他の設備から1m以上の空地を確保する。
  • キュービクル式以外(屋外・屋上)
    隣接する建築物等から3m以上離す必要がある(不燃材料+防火戸等の条件による緩和あり)。
  • 福岡市の技術基準の例
    燃料タンクと原動機の間隔は0.8m以上(予熱方式は2.0m以上、遮へい物がある場合を除く)など、全国一律の最低基準に加えて各消防本部の審査基準が適用されるケースがあります。

近年の水害を受け、国土交通省・経済産業省による「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」が策定されています。

内発協の調査でも、過去の豪雨災害における発電機の不具合の多くが浸水に起因していました。

地下や1階に設置する場合は、ハザードマップによる浸水リスクの確認や基礎のかさ上げなど、万全の防水対策が求められます。

非常用発電機は電気をつくるだけでなく、「燃料を貯蔵する設備」「排気ガスを排出する設備」でもあるため、関連する他の法令上の手続きが発生します。

軽油200L以上1,000L未満、重油400L以上2,000L未満などの場合は、火災予防条例に基づく「少量危険物」の届出が必要です。

さらに容量を超えると消防長の許可が必要となります。

燃料の燃焼能力が重油換算で50L/h以上のディーゼル機関などは「ばい煙発生施設」に該当します。

エンジンは電気工作物に含まれるため、手続きは地方自治体ではなく九州産業保安監督部へ電気事業法に基づく工事計画届出を行います。

※受理から30日間は着工できません。

届出・手続きの名称根拠法令期限提出先対象となるケース
発電設備の設置届 福岡市火災予防条例 第44条 工事着手の7日前まで(2部) 所轄消防署 予防課 固定して使う内燃機関の発電設備
少量危険物の貯蔵・取扱い届出 福岡市火災予防条例 第46条 工事着手の7日前まで(2部) 所轄消防署 予防課 軽油200L以上等の場合
消防用設備等の設置届 消防法 第17条の3の2 工事完了後4日以内 所轄消防署 消防用設備の非常電源として設置する場合
保安規程の変更届等 電気事業法 第42条・第43条 新設は使用開始前、変更は遅滞なく 九州産業保安監督部 出力10kW以上、または高圧受電の建物
工事計画届出(ばい煙) 電気事業法 第48条 受理後30日間の待機期間あり 九州産業保安監督部 燃焼能力が重油換算50L/h以上の場合

※期限・様式は福岡市の場合です。他の市町村では火災予防条例・規則により異なるため、所轄の消防署にご確認ください。

図面の段階で所轄消防署の予防課や電気主任技術者と事前協議を行うことで、手戻りのないスムーズな進行が可能になります。

非常用発電機の設置工事は、以下のステップで進行します。

本体は受注生産品が多く数か月の納期がかかるケースが一般的であるため、スケジュールには十分な余裕を持つことが重要です。

STEP

現地調査・負荷の整理

停電時に動かすべき負荷の洗い出しと既設設備の確認。

STEP

機種・設置場所の決定

出力算定、燃料の種類、専用室やキュービクル、屋外・屋上の選定。

STEP

事前協議・届出

所轄消防署や産業保安監督部への各種届出。

STEP

基礎・搬入・据付

コンクリート基礎、防振措置、アンカー固定。

STEP

電気・燃料・排気工事

切替盤、幹線、制御配線、燃料配管、排気筒の施工。

STEP

試運転・検査

起動試験(40秒以内の電圧確立)、切替確認、消防検査の受検。

STEP

試運転引き渡し・運用開始・検査

取扱説明、保安規程の変更手続き、点検体制の確立。

学校や公共施設においては、長期休暇や休館日・夜間帯に合わせた柔軟な工程調整が求められます。

消防用設備の非常電源として設置された発電機は、消防法に基づき以下の点検と報告が義務づけられています。

  • 機器点検:6か月ごと
  • 総合点検:1年ごと
  • 結果報告:特定防火対象物は1年に1回、その他の対象物は3年に1回、所轄消防長または消防署長へ報告

総合点検で行う負荷運転については、2018年6月の法改正により以下のように見直されました。

  • 負荷運転に代わる点検方法として「内部観察等」が追加されました。
  • 適切な予防的保全策(消耗品の定期交換や予備部品の管理など)が講じられている場合は、負荷運転等の実施周期を「6年に1回」に延長することが認められています。
  • ガスタービンを原動機とする発電機は負荷運転が不要とされています。

適切なメンテナンスを怠ると、いざという時の不始動や燃料切れといった重大なリスクにつながるため、計画的な点検と保守が欠かせません。

既設の発電機を更新する際も、基本的には新設時と同様に火災予防条例に基づく各種届出や電気事業法上の手続きが必要です。

長年経過した設備では、現在の最新基準に照らし合わせて離隔距離や不燃区画、浸水対策が不足しているケースがあるため、「同じ場所に同じ大きさのものをそのまま置けるか」を初期段階で慎重に検証する必要があります。

また、新築や更新だけでなく、法的な義務のない建物へBCP(事業継続計画)や避難所としての機能強化を目的に任意で発電機を後付けする場合でも、火災予防条例や電気事業法、危険物規制の基準は同様に適用されます。

本体価格や設置工事費は、出力規模(10kWクラスから数百kWクラスまで)や設置場所(屋上・地下などの難易度)、切替盤・排気管・燃料タンクの有無によって大きく変動するため、現地調査に基づくお見積りが基本となります。

受注生産が基本となるため、仕様決定から納品・施工完了までに数か月の期間を要することが多く、官公庁の年度末などにはさらに時間がかかる場合があります。

国や自治体による災害対策関連の補助金(例:経済産業省の燃料備蓄推進事業費補助金や、各種施設向けの整備交付金など)が実施される場合があります。

ただし、公募時期や採択要件は年度ごとに異なるため、検討初期段階での最新情報の確認が必要です。

延べ面積が1,000㎡未満なら、非常用発電機は不要ですか?

面積だけで一概には決まりません。

非常電源が必要な消防用設備が建物にあるかどうかが基準となり、1,000㎡未満であれば非常電源専用受電設備等を選択できる余地が生じます。

発電機の代わりに蓄電池でも基準を満たせますか?

消防法上は蓄電池設備も認められていますが、ポンプなどの大容量動力を30分〜2時間動かすには非常に大きな容量が必要となるため、実務上は発電機が選ばれることが多くなります。

非常用発電機は何時間動けばよいのですか?

法令上の規定は設備ごとに30分〜2時間(消防法)です。

「72時間」などの水準は内閣府の手引き等で推奨される目安であり、実際の運転時間は「燃料タンク容量 ÷ 1時間あたりの燃料消費量」で決まります。

屋外に置く場合、建物から何m離せばよいですか?

キュービクル式の場合は建築物等から1m以上、それ以外は3m以上が基本となりますが、最終判断は所轄消防署との協議によって決定されます。

消防署への届出はいつまでに行う必要がありますか?

福岡市の場合、火災予防条例に基づく設置届は工事着手の7日前まで、消防用設備等の設置届は工事完了から4日以内と定められています。

マンションに発電機の設置義務はありますか?

共同住宅であること自体で一律の義務が生じるわけではありませんが、スプリンクラーや非常用エレベーター、連結送水管の加圧送水装置等が必要な規模のマンションでは、その非常電源として設置されます。

義務のない建物に任意で設置する場合も届出は必要ですか?

はい、火災予防条例の設置届、出力10kW以上の場合の電気事業法の手続き、燃料の貯蔵量に応じた少量危険物の届出などが同様に必要となります。

負荷試験は毎年必ず必要ですか?

総合点検(年1回)において負荷運転または内部観察等を行うのが原則ですが、予防的保全策を適切に講じている場合は6年に1回とすることが認められています。

発電機は何年くらいで更新すべきですか?

税法上の耐用年数は15年ですが、公共施設の保全計画等では30年程度を更新の目安とする例が見られます。

実際の部品供給状況や点検結果を踏まえて判断します。

非常用発電機の設置基準は、「設置義務の有無の判断」「適切な設置場所と離隔の確保」「消防署や保安監督部への各種届出」「設置後の定期点検と報告」というステップで整理することが重要です。

新築、更新、後付けのいずれのケースにおいても、設置場所や届出の仕様が固まる前の早い段階で専門の電気工事会社や関係機関へご相談いただくことをおすすめします。

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